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小作品集(掲載作品から)

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坂多瑩子

ざくろの木の下にころがっているティーポットの
欠けた口に雨が降りそそいでいる  
ポットの目盛りが②からちっとも増えない 
ポットのなかは薄明かりで

私は泳いでいた 
島が見える 
島にはあかりが
赤い色がゆれていて 
祭りの日だ  
祭りの日
なんて絵本か写真でしか知らない 
おとなもこどももうれしそうな顔をして 
だからキライだ 

雨はまだ降っている 
泳ぎ疲れた 
いつからいっしょに泳いでいるあんた達 
いったいどこからきたの 
水の底の原っぱに電車がとまっている 
あれに乗ってきた 
こどもがいった
氷菓子
提灯
ハッカパイプ

ここはきっと祭りの日の捨て場所 
看板がカタカタとめくれティーポットに雨が降りそそぎ
ざくろの木の下 金魚が泳いでいる 


長田典子

蚊帳の中で祖母と寝ようとしていると
浴衣を着た近所の子たちが
ばたばたと縁側に寄って迎えに来た
まだ みんなが
何を言っているのかわからなかった
寝巻きのまま わけもわからず 
立てかけてあった竹箒を持たされて
みんなの後を追って走って行った
水車小屋の横の小さな沢のあたり
真っ暗闇の中を
ぽわんっぽわんっ ぽわんっぽわんっ
揺らめきながら光るものがたくさん飛んでいて
みんなは影絵のように
虫取り網や座敷箒などで すいっ すいっ と
蛍を捕まえていった

いちめん草木の匂いが充満していた
蛙の鳴き声や虫の音が 息苦しいほどにあふれかえっていた
小川は底の小石と戯れるように そろそろと流れていた

誰かが歌い始めた

ほ ほ ほたるこい
あっちのみずは にがいぞ (きろきろきろきろじぃじぃじぃじぃ)
こっちのみずは あまいぞ(しゃらしゃらしゃらしゃら ぽこっ ぽこっ)

竹箒は小さなわたしには重すぎて
やみくもに振り回していただけだった
守備よく虫捕り網を持参していた子の虫籠の中で
蛍が お尻を黄色く光らせていた
家まで送ってくれた近所のお姉さんが
わたしに一匹分けてくれたから
蚊帳の中の枕元に放して
青臭い蛍の匂いを嗅ぎながら
そのまま眠ってしまったんだ 
夜の闇いっぱいに注がれる
蛙の鳴き声や虫の音を子守唄に聞きながら
ほたるこい を口の中で歌いながら

ほ ほ ほたるこい
あっちのみずは にがいぞ
こっちのみずは あまいぞ
きろきろきろきろじぃじぃじぃじぃ
しゃらしゃらしゃらしゃら ぽこっ ぽこっ
ほ ほ 
ほたる
こい

朝になると
蛍はただの黒い虫になって
蚊帳の隅で死んでいた

仲良しの子がいる斜向かいの家まで走って行くと
軒下に吊り下げられた虫籠の中で
蛍は青臭い匂いのまま元気だった
おじさんが 口いっぱいに水を含んで
ぷふうううぅっ、と噴き出して
草の上の蛍にかけた
蛍は嬉しそうに足をちぢめていた
すごい技だった
あの霧吹きの技は
たぶん 誰もまねできない
夜になれば
またお尻を光らせてやるとでも言うように
蛍は
黒い背中をてらてらさせていたんだ


                 連作「ふづくらシリーズ」より

浅野言朗

諸点

                                    〈1〉
未詳の 点 は 柔らかく 打たれようとする まだ打たれていない/どこにも存在し
ていない 点 は まだどこか 例えば 織られることを拒絶した面 の背後 に隠さ
れたままであるだろうか あるいは 柔らかい筆の先端であるのか それとも柔らかい
ものではなく 硬く尖った先端に即時的に隠されているだろうか 打たれていない 点
は どこに潜んでいるだろう まだ見出されていない容器の中 それとも 雲のような
もの あるいは 粒子の群れの中に 紛れ込んでいるだろうか 打たれるはずでありつ
つも 打たれていない未然の 点 は 密やかに眠っている

                                    〈2〉
点 は おびただしい時間の後 ようやく 平面の上に打たれる 小さく打たれて し
かし 打たれた瞬間から滲みはじめて 浸潤しつつ 横に広がって行く 真円であるこ
とをたちどころに断念して 輪郭の曖昧な円に化して行く しかしながら 求められて
いた 点 は そのようなものであるべきではなかった どれほど拡大しても 円では
ありえない 点 のままの そのような 精密で潔い 点 が求められていた そして
そのような点を大量に生産する/出荷すること だから 点 は いかなる平面とも親
和的であってはならず いつまでも平面から隔絶されている

                                    〈3〉
点 が滲んでしまうのは 平面 の上のみ だったろうか もし 虚空に 点 を打つ
ことが出来たならば 反ってそのまま静止していただろう 空中に浮かんだままの 点
はようやく揺れ始めたり それから 淡い光を浴びて その色彩をめまぐるしく変えた
りもしていた けれども 諸点は 絶えず 掠め取られようとしている 点 は 開か
れるものであり 点 は そのもののうちに 折り畳まれようとしても その痕跡は消
えない 空域をたくし込んで 内側に折り畳まれ 最後に残ったスイッチのように も
だえている 

                                    〈4〉
もし 部屋の中に忍び込んだ 点 を追放しようと思っていたのならば 部屋 と 点
は反転されるだろう その部屋は 正午までに 点 を放逐するものとする 部屋の窓
の外では 色彩が 赤くなったり 青くなったり それから 白くなったり している
色彩は その 点 を置き忘れた 結果 だろうか それとも 発端 だろうか 点
は もはや/最初から 掌にのせることも 握ることも できなかっただろう 点 を
打ち間違えた公園は どこか 不機嫌だった 広がりは 消え去らない 未消化な残余
わずかに残った痕跡 のように 点 でありえないこと の諦め方についての記述を始


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